収益の仕組み

系統用蓄電池投資とは|3つの収益源の仕組み

収益源は3つ。それぞれ「何に対して払われるお金か」と、天井が下がってきている現状を整理します。

日本の郊外に並ぶ系統用蓄電池のコンテナ設備

公開日: 2026年11月4日|蓄電所投資ラボ

系統用蓄電池投資とは

系統用蓄電池(BESS:Battery Energy Storage System)投資とは、電力系統(送配電網)に直接接続する大型の蓄電池を設置し、電気の売買や調整力の提供によって収益を得る事業です。住宅用太陽光発電のように、決まった価格で一定期間電気を買い取ってもらえるFIT(固定価格買取制度)のような仕組みは系統用蓄電池にはありません。収益はすべて市場価格や制度上の公募結果に左右される「市場リスクを伴う事業」であるという点が、まず押さえておくべき前提です。

収益源は大きく分けて、(1)JEPX(日本卸電力取引所)での売買差益、(2)需給調整市場での調整力提供、(3)容量市場・長期脱炭素電源オークションでの供給力対価、の3つです。それぞれ性質の異なる市場であり、価格が変動する要因も、制度の見直し方向も異なります。本記事では、この3つの収益源の仕組みと留意点を順に解説します。

収益源1: JEPX(卸電力市場)のアービトラージ

JEPXのスポット市場は、電気を30分単位で売買する市場です。太陽光発電の導入が進んだ地域・時間帯では、日中に発電量が需要を上回りやすく、電力価格が下落する傾向があります。一方、夕方から夜にかけて太陽光発電が減少すると、価格が上昇しやすくなります。この価格差(スプレッド)を利用し、価格が安い時間帯に充電し、価格が高い時間帯に放電して売電する取引が「アービトラージ(裁定取引)」と呼ばれる収益の柱です。

JEPXのスポット価格には0.01円/kWhという下限があり、太陽光発電が過剰になる時間帯にはこの価格に張り付くことも珍しくありません。極端に安い時間帯に充電できれば、理論上は大きな差益を得られる可能性がありますが、注意すべき点もあります。収益は「価格差×充放電量」に比例して決まりますが、充放電のたびに電池は劣化し、将来的な容量低下や交換コストにつながります。また、充放電の過程では電力の一部が熱などとして失われる「充放電ロス(効率低下)」があり、実際に売れる電力量は充電した量よりも少なくなります。つまり、市場価格のスプレッドがそのまま収益になるわけではなく、劣化コストと効率ロスを差し引いた実質的な採算で評価する必要があります。

系統用蓄電池コンテナの列

収益源2: 需給調整市場(調整力の提供)

需給調整市場は、電力系統の周波数を一定に保つために必要な「調整力」を取引する市場です。発電量と需要量に差が生じると周波数が乱れるため、瞬時に出力を増減できるリソースが求められます。商品区分は応動の速さに応じて一次調整力、二次調整力①・②、三次調整力①・②に分かれています。

対価の構造は2階建てになっています。待機していること自体への対価である「ΔkW対価」と、実際に指令を受けて充放電した電力量に対する「kWh対価」です。蓄電池は出力の増減を瞬時に行える応動速度の速さが特長であり、この市場との相性が良いとされています。

ただし、この市場の収益見通しには注意が必要です。一次調整力・二次調整力①・複合商品のΔkW上限価格は、19.51円/ΔkW・30分から2026年3月には15円へ、さらに2026年9月には10円へと段階的に引き下げられています。競争状況次第では7.21円までさらに引き下げる方針も示されており、あわせて募集量も「3σ相当」から「1σ相当」へと縮小する方向にあります(σは必要量を統計的に見積もる際の指標で、値が小さくなるほど調達量が絞られることを意味します)。参入が増えて価格競争が進んだ結果、「制度が収益の天井を下げてきている」というのが現状であり、過去の高水準の収益実績をそのまま将来に当てはめることはできません。

一方で参加の裾野は広がっています。2026年4月からは、50kW未満の低圧リソースも需給調整市場に参加できるようになりました。ただし市場の最低入札量は1MWであるため、低圧設備が単独で参加することはできず、複数のリソースを束ねて入札する特定卸供給事業者(アグリゲーター)の存在が前提となります。小規模な事業者が参入する場合は、アグリゲーターとの契約条件や手数料水準が実質的な収益を左右します。

変電設備と送電線のある郊外の風景

収益源3: 容量市場と長期脱炭素電源オークション

容量市場は、将来のある時点で必要となる供給力(kW)そのものに対価を支払う仕組みです。発電設備や蓄電池があらかじめ応札し、約定すれば容量収入を得られますが、実際に系統から発動指令を受けた際に応じる義務(リクワイアメント)が課され、これを果たせない場合にはペナルティが科されます。つまり容量市場は「待機すること」への対価であると同時に、「いざという時に確実に動く」という信頼性への対価でもあります。

容量市場の一部として、OCCTO(電力広域的運営推進機関)が主催する長期脱炭素電源オークションがあります。これに落札すると、固定費水準に相当する容量収入を原則20年間という長期にわたって得られる点が大きな特徴です。一方で、この制度のもとでJEPXや需給調整市場など他の市場で得た収益は、事後的に約9割が還付される仕組みになっており、長期脱炭素電源オークションの収入とその他市場の収入を単純に合算して「二重取り」することはできません。

入札方式はマルチプライス方式で、価格の安い提案から順に落札されます。蓄電池については電源種別ごとに募集上限が設けられており、応札すれば必ず落札できるわけではありません。実際、2025年度の応札ではリチウムイオン蓄電池の応札量152.5万kWに対し、落札量は55.1万kW、落札率は36%にとどまりました。長期で安定した収入が見込める制度ではありますが、「落札されること」自体が確実ではない点は、投資計画を立てるうえで織り込んでおく必要があります。

ビリペン

3つの収益源は、得意な場面がそれぞれ違います。全部が同時に稼ぐ前提の計画は、少し疑ってかかるのが安全です。

3つの収益は単純に「積み上げ」できない

JEPX、需給調整市場、容量市場という3つの収益源を紹介しましたが、同じ電池の容量を同じ時間帯に複数の市場へ重複して約束することはできません。たとえば需給調整力として待機を約束している時間帯には、その容量をJEPXのアービトラージに同時に使うことはできないということです。

実際の運用では、時間帯ごと・容量ごとにどの市場へ配分するかを判断しながら運用することになります。そのため、「JEPXで得られる最大収益」「需給調整市場で得られる最大収益」「容量市場の収益」をそれぞれ単純に足し合わせて試算することは成り立ちません。各市場の価格動向や需要を見ながら最適な配分を行う運用力そのものが、実質的な収益を左右する要素になります。

受変電設備のキュービクルが並ぶ設備ヤード

まとめ: 収益を見るときの姿勢

系統用蓄電池投資は、FITのような固定収入が保証された事業ではなく、複数の市場環境と制度改定の影響を受けながら収益を積み上げていく事業です。JEPXのアービトラージは価格差に加えて劣化コストと効率ロスを考慮する必要があり、需給調整市場は上限価格の引き下げや募集量の縮小という逆風が続いています。容量市場・長期脱炭素電源オークションは長期の収入が見込める一方、落札が保証されているわけではなく、他市場収益の還付という仕組みも理解しておく必要があります。

また、実際の入札や充放電の制御は専門知識を要するため、アグリゲーターに運用を委託するのが一般的であり、得られた収益からは手数料が差し引かれます。投資を検討する際は、提示される収益試算がどの市場を前提にしたものか、劣化・手数料・制度変更といった下振れ要因がどこまで織り込まれているかを確認し、過度に楽観的な利回り表現を鵜呑みにしない姿勢が重要です。

出典

ビリペン
ビリペンのひとこと

“収益源は3つありますが、全部がいつも働くわけではありません。休んでいる市場の分まで当てにしないのが、このサイトの考え方です。

あわせて読みたい
蓄電所投資の初期費用と利回り|前提の置き方と広告の見抜き方 →
系統用蓄電池投資のリスク|価格下落・制度変更・系統接続 →
数字で確かめたい方は、トップページのかんたん収支シミュレーションで保守ケースを試算できます。